民族とは、同じ文化とそこへ帰属意識を共有する集団のことです。言語や宗教、生活様式などの文化の違いによって分類されます。
言語による分類
民族を分類するときには言語による分類が代表的です。同じ系統の言語の集まりのことを、語族といいます。この語族で分類をすると、
- インド・ヨーロッパ語族・・・ヨーロッパ、ロシア、イランからインドにかけての地域に分布
- アフリカ・アジア語族・・・エチオピアなどのアフリカの北半分、サウジアラビアなどのアラビア半島などに分布
- ウラル・アルタイ語族・・・フィンランド、ハンガリー、モンゴルにかけての地域に分布
- シナ・チベット語族・・・中国、ミャンマー、タイ、ラオスに分布
- オーストロネシア語族・・・インドネシア、フィリピン、マダガスカルなどに分布
に分かれます。似たような言語を用いる人々をくくると、こういった分類になるということです。
人種は生物学的に、民族は言語などの文化的に分類するものであり、その切り口が異なっているのです。
ヨーロッパ民族(ラテン語系・ゲルマン語系・スラブ語系)
ここではインド・ヨーロッパ語族のなかの、ヨーロッパの民族について説明します。
ヨーロッパの三大民族として、
- ラテン語系民族
- ゲルマン語系民族
- スラブ語系民族
があります。
ラテン語系民族
南ヨーロッパ、地中海沿岸地域に分布しています。国名でいうと、スペイン、ポルトガル、イタリア、フランスなどです。
ゲルマン語系民族
アルプス以北地域の北西ヨーロッパに分布しています。国名でいうと、イギリス、ドイツ、オランダ、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーなどです。
スラブ語系民族
東ヨーロッパに分布してます。国名でいうと、ロシア、ウクライナ、ポーランド、スロベニア、セルビアなどです。
宗教による民族の分類
宗教の違いで、民族を分けることができます。
世界のなかで大きな宗教といえば、キリスト教、仏教、イスラム教の三大宗教が挙げられます。
キリスト教は、カトリック、プロテスタント、正教に分けられます。ヨーロッパの宗教はキリスト教ですが、地域によってこれら3つの教派は信仰されています。
ヨーロッパの三大民族として、ラテン語系民族、ゲルマン語系民族、スラブ語系民族があると書きました。これら民族と宗教の関係性は、次のようになっています。
北西ヨーロッパは、ゲルマン語系民族で、プロテスタントです。
南ヨーロッパは、ラテン語系民族で、カトリック。
そしてスラブ語系民族ですが、
ウクライナなどの東ヨーロッパやロシアは、スラブ語系民族で、正教。
ポーランドやチェコなどは、スラブ語系民族で、カトリックです。
ヨーロッパの民族(ケルト人・フィン人・バスク人)
ヨーロッパのその他の民族のなかには、ケルト人、フィン人、バスク人がいます。
ケルト人は、紀元前にヨーロッパ全域に広がっていましたが、ローマ時代にゲルマン人の侵入によって、西に逃れ巻いた。現在は、アイルランドやイギリスの一部の狭い範囲に分布しています。
フィン人は、フィンランドの人口の多くを占めます。
バスク人とは、スペインとフランスの国境地帯で、ビスケー湾に面した地域をバスク地方といい、独自の言語と文化を持っています。
中国の民族
大多数の漢族と、宗教や生活文化が異なる少数民族
中国の面積はとてつもなく広いですから、そのぶん様々な民族によって国民が構成されています。
まず、中国の人口の90%以上が漢民族です。外務省の中華人民共和国基礎データによると、91.5%が漢民族です。
その他の民族は少数民族と呼ばれます。人口の多い順で、チワン族、満州族、回族(ホイ)、苗族(ミャオ)、ウイグル族、トゥチャ族、イー族、モンゴル族、チベット族などなど、たくさん存在しています。
中国人口のわずか数%の少数民族といっても、もともと中国全体の人口が相当多いですから、
たとえばチワン族は、中国人口の1.3%ほどですが、人数は1500~1600万人ほどで、かなりの人口であるわけです。
少数民族には、漢族とは異なる宗教や独自の生活文化を持っています。
ウイグル族やホイ族は、イスラム教徒です。チベット族はラマ教で、伝統的にヤクを飼育して生活をしています。
海外に出る漢族、華僑と華人
東南アジア付近の中国人(漢族)は、東南アジアに移住し、そこで仕事をして生活する人々がいました。
海外に移住した中国人のことを華僑といいます。広東省(コワントン省)、福建省(フーチェン省)から、シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイに移住し、商業・経済分野で活躍する人が多いです。
華僑の「僑」の文字は、仮住まいという意味です。華僑は、出稼ぎのために海外に出て、いつかは故郷の中国に戻るつもりでいました。
しかし、移住先で根付い、現地で生まれた子供は、その国の国籍をとって、定着をします。
そういった現地で生まれて現地国籍を取得した中国人のことを、華人と呼びます。
国籍を取得していない移住した人(1世)を華僑、その子供(2世)以降の世代を華人と呼ぶ場合もあります。
マレーシアの民族
マレーシアの民族は、マレー系民族、中国系民族(漢族)、インド系民族です。民族構成は、次の表のようになっています。
マレー系 | 6割 | マレー半島の先住民族で、イスラム教を信仰している。 |
中国系 | 3割 | 中国から渡ってきた華僑や華人で、仏教徒・道教を信仰している。 |
インド系 | 1割 | タミル人でヒンドゥー教を信仰している。 |
上記した華僑・華人の話にあったように、中国からマレーシアに移り住んで仕事をしている人々がいます。
マレーシアはもともとイギリスの植民地でした。植民地では、プランテーション農業が行われますが、マレーシアでは天然ゴムの栽培です。その労働力として、同じイギリスの植民地であったインドから、人々が入ってきたのです。
マレーシア系の人々はもともと農業に従事する人が多く、インド系の人々はプランテーションでの働き手、そして中国系の人々は、都市で商業・経済活動をする。こういった住み分けがありました。
経済的には、中国系の人々が成功をおさめてきました。すると、もともとの住民であるマレー系の人々からは不満の声が出てきます。
そこでマレーシア政府が打ち出したのが、マレー系の人々を優先するブミプトラ政策です。教育、就職、住居など様々な面でマレー系の人を優遇する政策がとられ、マレー系の人々の地位向上が図られました。
シンガポールの民族
シンガポールは、マレー半島の先端にある都市国家です。中国人が人口の多くを占めています。
1900年代のはじめに、アジアの航海の要所として発展し、中国系の人々が流入しました。
もともとはマレーシアの一部であったのですが、マレーシア系の人々を優遇するブミプトラ政策を、中国系の人々はよく思うはずもなく、平等政策を進めてほしいと思うわけです。独立の機運が高まり、マレー半島の先端のシンガポールは、1965年に分離・独立をしました。
シンガポールの民族構成は、約75%が中国系で、残りがマレー系、インド系です。マレーシアではマレー系が一番多いですが、それとは民族構成が異なり、シンガポールでは中国系が一番多くなります。
シンガポールでは、英語、中国語、マレー語、タミル語の4つを公用語としています。
スリランカの民族
スリランカの民族は、シンハラ人とタミル人です。
シンハラ人 | 約75% | 中部~南部に住んでいて、仏教を信仰しています(上座部仏教)。多数派。 |
タミル人 | 約15% | 北部に住んでいて、ヒンドゥー教を信仰しています。少数派。 |
その他 | 約10% |
スリランカは1948年にセイロンとして独立し、シンハラ人の優遇政策がとられたため、1970年代には、タミル人による反政府運動が活発化しました。1983年には反タミル人の暴動が発生し多数の難民が海外に流出しました。
政府軍と反政府武装組織「タミル・イーラム解放の虎(LTTE)」との争いは続きましたが、2009年にスリランカ政府は内戦の終結を宣言しました。内戦よって多数の避難民が生み出され、破壊された住居やインフラの復旧、埋められた地雷の除去などの課題が残りました。
西アジアの民族
アラブ人
アラビア語を話し、イスラム教を信仰し、北アフリカから、アラビア半島、西アジアにかけての乾燥地域に住む人々です。
モロッコ、アルジェリア、エジプト、サウジアラビア、イラクで暮らす人々が該当します。
ベドウィン
アラビア半島を中心にアラブ系の遊牧民です。ラクダ、羊、ヤギを飼育し、イスラム教を信仰しています。
トルコ人
トルコ語をつかい、イスラム教を信仰しています。ウラル=アルタイ語族で、中央アジアや中国・ウイグル自治区と同じ語族です。
EUへの加盟交渉が続けており、欧米諸国との関係も重要視しています。
とくに都市では、ヨーロッパ化が進んでいて、イスラム教は飲酒が禁止されていますが、比較的に自由にお酒も買うことができます。
クルド人
推定人口は約3000万人で、国を持たず、トルコ、イラン、イラクにまたがる地域に、クルド人の居住地があります。イスラム教を信仰しています。
パレスチナのユダヤ人とアラブ人
パレスチナには、ユダヤ人とアラブ人によるこの地の帰属をめぐる争いがあります。
ユダヤ人の言語はヘブライ語で、ユダヤ教を信仰しています。
2000年前には、パレスチナにユダヤの国がありましたが、ローマ軍の侵略があって追い出されたユダヤ人は、世界各地に散り散りになりました。長い間ユダヤ人は国を持たない民族となっていました。
第二次世界大戦の時代には、ヒトラーによるユダヤ人が弾圧・虐殺された歴史を通して、ユダヤ人たちは自分たちで自分たちの国家をつくりたいと思うようになったのです。ユダヤ人たちは、もともとユダヤの国があったパレスチナに回帰しようと考えたのです。
アメリカには金融業で成功するなど、ビジネスで活躍するしたユダヤ人が多くいます。私はキルギスを旅したときにユダヤ人に会ったことがあります。宿泊していたホテルの近くの民家に住むユダヤ人でした。
アメリカやヨーロッパ諸国にユダヤ人人口が多いですが、中央アジアにもユダヤ人がいるようですね。
一方のアラブ人は、定義としては上記の西アジアの民族で説明したもので、
アラビア語を話し、イスラム教を信仰し、北アフリカから、アラビア半島、西アジアにかけての乾燥地域に住む人々
です。
ユダヤ人が戻ろうとしたパレスチナの土地には、アラブ人が住んでいましたが、イスラエルの建国によって、アラブ人は追い出されてしまいました。当然、抗争に発展してしまいます。アラブ人たちは、PLO(パレスチナ解放機構)を組織して、武力闘争で応じました。
こうなってしまった原因は、イギリスの外交にありました。第一次世界大戦中に、ユダヤ人にはユダヤ人の国をつくると約束し、アラブ人にはアラブ人の国をつくることを約束し、混乱を招きました。
北アメリカの民族
カナダの民族は、基本的にはイギリス系の人々で、英語を話します。
しかし、カナダのケベック州にはフランス系の人々が多く住んでいて、フランス語が公用語になっています。独立運動も行われましたが、まだ独立には至っていません。
そのほかに、イギリス系以外が住む場所としては、イヌイットが住むヌナブト準州があります。イヌイットの自治権が認められています。
カナダ国の方針として、多文化主義をかかげていて、複数の民族と共存することを目指しています。
カナダでは、フランス人の多いケベック州、イヌイットの自治権を認めたヌナブト準州があり、国の方針として多文化主義をかかげています。多文化主義が採用されている他の国としては、オーストラリアがあります。
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